第一回 資源プラオンラインセミナー 特別寄稿
改正バーゼル条約に対応する手段としての資源プラ
一般社団法人 資源プラ協会 理事(技術担当)
本 堀 雷 太
技術士(衛生工学部門、生物工学部門)
環境カウンセラー(事業者部門)
労働衛生コンサルタント(労働衛生工学部門)
2021年1月1日より改正バーゼル条約が発効し、国際的なプラスチック廃棄物の物流環境は大きく変化する事となりま した。運用面で未だ十分に明らかになっていない点も多く、実務を担う現場では混乱が生じています。
しかしながら、これまでとは異なり全てのプラスチック廃棄物がバーゼル条約の下に管理されるという事実は紛れも なく、円滑な国際的なプラスチック廃棄物の物流を維持するためには「客観的な事実に裏付けられた戦略」に基づき「実 効性のある対策」を適切に講じる必要があります。
このレポートでは、まずプラスチック廃棄物の取扱いに係る改正バーゼル条約の概要について解説した後、改正バー ゼル条約に適切に対応する手段としての我々一般社団法人資源プラ協会が進めている「資源プラ」という取り組みについて説明させて頂きます。
1.改正バーゼル条約におけるプラスチック廃棄物の取扱い
「バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約)」は、有害廃棄物の国 境を越えた移動に関して、国際的な枠組みや手続等について定めた条約です。
中国の輸入規制「国門利剣(ナショナルソード)」に端を発したプラスチック廃棄物の国際的物流に対する社会の関心の 高まりを受け、2019年4月29日~5月10日に第14回バーゼル条約締結国会議がスイスのジュネーブで開催されました。
この会議において、国境を越えた移動に伴って環境汚染を引き起こす可能性があるプラスチック廃棄物の取扱いにつ いて協議され、リサイクルに適さないプラスチック廃棄物の輸出規制が行われる事に決しました。
今回の条約改正のポイントは、全てのプラスチック廃棄物がバーゼル条約において網羅的に規定される事にあります。 具体的には表1に示した様に、「特別の考慮が必要な廃プラスチック」、「有害な廃プラスチック」、「非有害な廃プラスチッ ク」の3種類に分類され、「特別の考慮が必要な廃プラスチック」と「有害な廃プラスチック」についてはバーゼル条約上 の規制を受ける事となりました。
ただし、一つ注意して頂きたいのですが、この規制は決して「輸出禁止措置」ではないのです。規制対象のプラスチッ ク廃棄物であっても輸出相手国の同意があれば輸出は可能です。しかし、昨今のプラスチックに由来する環境汚染への 社会の厳しい眼を逃れて汚染を引き起こす可能性のあるプラスチック廃棄物を輸出する事は非常に難しくなると考えた 方が宜しいかと思います。
さて、このバーゼル条約ですが、我が国の国内における実務的な取扱いは「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関 する法律(バーゼル法)」に基づいて執り行われています。今回の条約改正において最大のポイントとなるのは、先に述 べた「特別の考慮が必要な廃プラスチック」というものの範囲をどの様に設定するかという点です。
「特別な考慮」って何の事なのか良く分かりませんよね。そこで改めてバーゼル条約の改正内容を見てみますと、附属 書IIのY48に以下の様に定義されています。
要はプラスチック廃棄物のうち、物理的・化学的・生物学的な性質などに由来する有害性を有する「有害な廃プラスチ ック」とリサイクルに適した「非有害な廃プラスチック」以外は基本的に「特別の考慮が必要な廃プラスチック」であると記 されているのです。
但し実務上は、どの様な廃プラスチックが「特別な考慮が必要な廃プラスチック」に該当するかは各国の解釈に委ねら れているという事になります。環境省の専門家会議や経済産業省において、プラスチック廃棄物の排出の由来、異物の含 有量、汚れの程度などを様々な角度から吟味して「特別な考慮が必要な廃プラスチック」の該当範囲の検討が進められ ました。
この該当範囲については、今後、プラスチック廃棄物の流通の実態に応じて適宜改変されたりするなど、実務上 の取扱いが変わる可能性があります。我々資源プラ協会としても、この様な運用上の変更点が明らかとなった場合には、 資源プラ協会ホームページ内に設けられた会員ページなどを通じて速やかに会員の皆様にお知らせする様な体制を整 えています。
さて、先にも述べましたが、今回のバーゼル条約の改正は越境に伴い環境を汚染する可能性のあるプラスチック廃棄 物の輸出を完全に禁止するものではありません。あくまでもその様なプラスチック廃棄物を輸出する場合には、輸出相手 国の同意を得て輸出するという手続き上のルールを明確に定めるというものです。
しかし実務上は、相手国がそう易々 とリサイクルを行う上で不利な汚れたプラスチック廃棄物の輸入を認める事はなかなか無いと言えます。やはり、中長期 的には汚れたプラスチック廃棄物については“行き先”を失っていく宿命にあるのではないでしょうか?
2.改正バーゼル条約に適切に対応する手段としての「資源プラ」
以前、とある行政関係の方とお話しをさせて頂いた折に、「廃プラは全量国内でリサイクルが出来るはずだ!」と呟か れたのを聞いた事があります。これにはさすがに耳を疑いました。我が国のマテリアルバランスや再生プラスチック原料 市場の規模を鑑みれば、全量国内リサイクルはどう考えても無理な話です(特にPETボトル)。
やはり国際的な物流を利用し、我が国の持つ優れた技術を活用する事で、多様なリサイクルのチャネルを積極的に構 築する方が妥当だと我々は考えています。
現状下におけるプラスチック廃棄物の市場取引動向を鑑み、アジア地域において想定されるプラスチック廃棄物の物 流チャネルとその問題点についてまとめたものを図3に示します。
現在の我が国においては、再生プラスチック原料に対する需要自体が小さく、再生プラスチック製品(成形品)の市場 自体が十分に成長していません。法整備や社会の認知など様々な課題があるのですが、現実的には人口減や極端な高 齢化の進行に伴って消費市場自体が縮小傾向にある我が国においてはやむを得ないでしょう。
やはり、リサイクルに適したプラスチック廃棄物、改正バーゼル条約においては「非有害な廃プラスチック」を資源や工 業原料として位置づけて輸出する道を模索していく事が重要です。
日本国内で閉じた循環の輪を作るのも大切ですが、海外との間で安定かつ多様なリサイクルのチャネルを構築すると いう事業戦略も一考に値するかと思います。
この戦略は、我々一般社団法人資源プラ協会が進めている「資源プラスチック(Resource Plastic)(通称:資源プラ)」 という取り組みと見事に合致しています。
資源プラは、元来“品質の向上”により処理物の市場流通性を向上させる事で、円滑な静脈物流を維持するために提唱 された概念なのですが、品質の向上を目指す事はバーゼル条約の眼目である「国際的な廃棄物の越境に伴って生じる 環境への悪影響を除く事」にも大きく資する事になります。そこで、この辺りをもう少し順を追って説明させて頂きます。
「資源プラ」とは、有償取引に供されるプラスチック廃棄物の前処理後、中間処理後の処理物に適用される概念であり、 取引上、品質面で一定の基準を満たす処理物について「資源プラ」との呼称を付与する事で、市場経済に叶った形での、 流通上のインセンティブを付与するものです。
ざっくばらんに言いますと、プラスチック廃棄物を適切に処理した処理物の「品質」の基準というものを明確に定め、こ の基準を満たす品質面に優れる廃プラスチック処理物については、「資源プラ」と呼び習わす事で、ユーザーの皆様に品 質面で優れる事をアピールするという取り組みです。
この資源プラスチックの定義ですが、資源プラ協会の専門家を交えた協議を通じて、以下の様に定められました。
基本的には、「プラスチック廃棄物に適切な前処理や中間処理を施すことで、再生プラスチック原料の基材として、有 価で取引する事が出来る品質を保有する処理物の事」を資源プラと称するですが、品質面のみならず、関係法令による 規制も遵守し、また取引上の商慣行等の基準についても満たす事を要件としています。
この要件を満たす様な資源プラを製造する処理システムを構築する事ができれば、自ずと我が国での処理段階で汚 れや異物などの環境負荷の要因を除く事になり、処理物(=資源プラ)の物流過程における環境汚染の発生は極力減ら す事が可能となります。
この事を担保するために、先に示した資源プラの定義においては、品質要件に「汚れの付着」や「異物の混入の程度」 といった事項を明記し、更には「輸送時や保管時において物理的・化学的に安定であり、安全かつ衛生的に取引ができる 荷姿に仕上げられている事」と定めています。
また資源プラの第一項に記されている「全量を再生プラスチック原料の基材として利用できる品質」というのが資源 プラプロジェクトの”ミソ”であります。
仮に輸出先で新たな異物分別などの処理を施す必要が生じれば、周辺環境を汚染する可能性も否定できません。こ の様な事態が発生すれば、輸出元(処理物を引き取った商社)、ひいては排出事業者がその責を厳しく追及される事にな ります。
そのため、資源プラにおいては物流の段階でこれ以上の前処理や中間処理を施す事無く、直接全量を基材として再 生処理に供する事が可能である事を第一の要件に定めているのです。
つまり資源プラにおいては、「商品としての市場流通性」とバーゼル条約で求められる「物流における環境調和性」の2 つの課題を「品質」という視点で束ねる事で一気に解決できる事になります。
従来の廃棄物処理の一部であったマテリアルリサイクルにおいては、処理業者が得る「処理手数料」を軸にお金の流 れが出来上がっていたのですが、処理手数料は人件費やエネルギーコストなど様々な社会的要因に左右されます。他方、 品質に依拠した資源プラ物流においては、処理手数料に加え、「再生プラスチック原料の基材」という工業製品の「売却 益」というものの存在が大きくなってきます。
この「処理手数料」と「売却益」のベストミックスこそがこれからのリサイク ルビジネスを構築する上での最大のカギとなります。この資源プラ製造におけるコスト構造ついては、紙面の都合で別の 機会に譲らせて頂き、改めて取り上げさせて頂きます。
3.おわりに
改正バーゼル条約への対応はプラスチックリサイクルの世界で生きる者にとって間違いなく”死活問題”となります。 これに適切に対応する一つの答えとして、我々資源プラ協会では「資源プラ」という取り組みを提唱させて頂いています。
先にも述べました様に、品質に依拠した資源プラは経済的な合理性に基づく市場流通性と、技術的な妥当性に基づ く環境調和性を兼ね備えており、バーゼル条約施行下で厳しさを増す国際的なプラスチック廃棄物の物流環境下を生き 残る力を有しています。
改正バーゼル条約の発効によりしばらくは物流の現場は混乱に見舞われるかと思いますが、資源プラという「客観的 な事実に裏付けられた戦略」に目を向けて頂き、「実効的な対策」を講じて頂ければと思います。
特別寄稿 改正バーゼル条約に対応する手段としての資源プラ(PDF)
一般社団法人 資源プラ協会 理事(技術担当) 本 堀 雷 太
技術士(衛生工学部門、生物工学部門) 環境カウンセラー(事業者部門) 労働衛生コンサルタント(労働衛生工学部門)
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