この会員ページでもたびたびお話しさせて頂いていますが、プラスチックのマテリアルリサイクルを進める上で「素材の単一性」を確保する事は非常に重要です。
異なる素材を適切に分別し、再生処理の妨げとなる汚れや異物を除く事がどの程度できるかが、再生プラスチック原料の物性や機能に直結する訳です。
まさにこの素材の単一性の程度こそが、マテリアルリサイクルにおける「品質」という評価になる訳で、この品質を突き詰める取り組みこそが「資源プラ」というチャレンジになるのです。
ただ実際の現場では、コストや技術の制約により、分別や異物の除去にも自ずと限界が生じます。
そのため、可能であるならば、排出時の廃プラスチックの段階である程度の素材の単一性が確保されている事が望ましいのです。
仕事柄、食品や医薬品などの容器包装の設計業務に携わる事が多いのですが、どうしても対象となる容器包装に求める物性や機能が高度で多様なものになると、素材を複合化したり、複雑な分子設計を施したりして、素材が多様化する傾向があります。
しかしながら、昨今、プラスチックによる環境汚染に社会的な注目が集まる中、容器包装業界においてもリサイクルを意識した設計が求められる様になってきています。
使用済みの容器包装がリサイクルの流れ、特にマテリアルリサイクルに安定に供されるためには、初めから単一の素材で製造される事が重要となります。
これを容器包装の「モノマテリアル化」と呼び、最近はこの様な方針で設計された環境志向の容器包装が上市されつつあります。
今回はモノマテリアル化の一つの事例として「ラベルレスのPETボトル飲料」を御紹介させて頂きます。
皆様ご存知の様に、今や巷にあふれるPETボトル飲料には、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のボトルが使われている事に加え、キャップやラベルといった異なる素材も使われています。
キャップについては以前この会員ページでも取り上げましたが、高密度ポリエチレン(HDPE)やポリプロピレン(PP)が使用されています。
海外では圧倒的にHDPE製のキャップが用いられているのですが、我が国では高温充填を行う茶飲料や乳製品飲料などではPP製のキャップが用いられる事が多いです。これは無菌充填を高温で行う事に加え、密閉性を確保するために多少の柔軟性が必要となるためです。
ラベルについては、ポリスチレン(PS)製のシュリンクフィルムを用いたラベルやミネラルウォーターなどで見られるポリエチレン(PE)系のラベルが存在しています。
この様にPETボトル飲料と申しまして、PET以外にも異なる種類のプラスチック素材が利用されているのです。
当然、PETのマテリアルリサイクルを行う際にはPETボトルから異なる素材を分別する必要があります。
PS製のシュリンクフィルムについては、ミシン目が付いている事が多く、これを引き剥がす事で簡単にフィルムを除く事ができます。
そのため自治体による回収などでは、家庭からPETボトルを排出する際に予めフィルムを除去する様に指導している事が多いです。
しかし、店舗や自販機で排出される廃棄PETボトルについては、ラベルが剥がされている事は少なく、そのまま中間処理(破砕)が施されます。
破砕が施された後、PETのみを回収する事になるのですが、キャップ由来のHDPEやPPは水洗を兼ねた比重選別により分別が行われます。
PS製のシュリンクフィルムについてはラベル剥離装置などで除く事も行われていますが、完全に除去する事は難しいです。そのため、比重選別工程にラベル由来のPSが入り込む可能性もあります。
PSの比重は1.1、PETの比重は1.4程度ありますので双方とも水に沈んでしまいます。このためどうしてもPET破砕物にPSが混入してしまう可能性があり、再生プラスチック原料の基材として品質が低下してしまう恐れがあります。
PE系のラベルについては、シュリンクフィルムの様にボトルに密着している訳ではありませんので、ボトルと粘着剤を介して結合しています。
そのためボトルからラベルを剥がす際には、この粘着剤が塗布されている部分を引っ張る形になるのですが、この粘着剤をPETボトルから剥がすのは結構難儀します。
粘着剤はポリブチレン系のものが多く使われていますが、これが除かれないまま破砕が施され、再生処理が行われますと結構悪さをする事があります。
PETのマテリアルリサイクルは繊維化やシート化が主に行われますが、粘着剤の混入が多くなると溶融粘度が不安定になり、押出成形による繊維化やシート化が不安定になる事があります。
紙面の都合でPETのマテリアルリサイクルにおける異物の影響はこれ以上詳しくは触れません。別の機会にガッツリと取り上げますのでご容赦願います。
さて、ここまで述べました様にPETボトルのマテリアルリサイクルを行う際には、キャップやラベルに加え、粘着剤という異なる素材を如何に除くのかという事が鍵となります。
キャップについては、(1)PETをキャップに使う事が技術的に難しい事、(2)比重選別によりHDPEやPPは分別出来る事から、このままで問題ありません。
※PETをキャップに用いる事ができない理由は、当会員ページ2015年4月25日の記事「【プラスチックの豆知識】ボトルキャップの素材はナニ?」をご覧下さい。
しかるにPS製シュリンクフィルムとポリブチレン系の粘着剤については、破砕物への混入の可能性があり、PETボトルの再生処理への悪影響が懸念されます。
その様な事情を鑑み、最近、プラスチック素材のラベル自体を用いない「ラベルレス」のPETボトル飲料が登場しました。その一例を下写真に示します。
左がラベルレス、右が従来品(PE系のラベルが使用)です。
ラベルレスの製品については、プラスチック素材の替わりに紙製のラベルを“被せる”形となっています。これならば除去も簡単ですね。
従来品のPE系ラベルでは、下写真の様に示す様に剥がす際に粘着剤を取り除く事が難しく、ボトル表面に張り付いたまま残ってしまいます。
ラベルレスならば、この様な粘着剤の心配もなく、破砕や洗浄などの中間処理もスムーズに進み、高品質のフレークを得る事ができます。 但し、プラスチック素材のラベルに比べ、上から被せるタイプの紙ラベルでは商品としての訴求性が劣るとの指摘もあり、市場で受け入れられるかはもう少し様子を見る必要があるかと思います。 大切な事は、商品のサプライヤーの側からリサイクルに適した容器包装の提案がなされた事で、彼らも環境に調和した商品の開発と提供が喫緊の重要課題であると認識している事が伺えます。 我々もプラスチックのリサイクルに携わるプロフェッショナルとして、(1)リサイクルに適した容器包装の企画や提案に加え、(2)本当にその容器包装がリサイクルに供する事ができるのか、(3)リサイクルの効果(環境への影響評価、コスト面での評価)というものを適切に評価していく事が大切であると思います。 これまでのモノ作りは「川上から川下へ設計していく」という流れが主流でしたが、これからは「川下から川上への提案」というのもがあっても良いのではないでしょうか? この会員ページがそんな環境に調和した容器包装設計のヒントとなれば嬉しいですね。
コメント